【FP解説】SNPLという選択肢
~個人向け後払い決済(BNPL)のメリット・デメリット~
目次
個人向け後払い決済(BNPL)とは
個人向け後払い決済とは、広い意味では商品・サービスの提供を受けた後に購入代金を支払う決済手段のことです。BNPLとは、“Buy Now , Pay Later”で、直訳すれば「今買って、後で支払う」という「後払い」を意味します。また、狭い意味では、クレジットカード等を用いずに商品・サービスの購入を行い、後日送付される請求書に基づいてコンビニや銀行などで支払いを行う決済手段のことを指します。以下では、狭い意味での個人向け後払い決済(BNPL)についてお話ししていきます。
個人向け後払い決済(BNPL)のメリット
個人向け後払い決済(BNPL)の最大のメリットはそのお手軽さです。とくに利用申し込みから審査完了までの手続きがクレジットカードや消費者ローンに比べて極めて簡素化されており、利用開始までのハードルが低く設計されています。原則としてすべての手続きがオンライン、とくにモバイル上で完結するように設計されており、利用しようと思ったその瞬間に後払いサービスを利用できます。そのため、突発的な出費が発生した際やどうしても今月の支出が想定よりも大きくなってしまう際に、支払いを繰り延べることで一時的な家計のピンチを救うことが可能です。
また、個人向け後払い決済(BNPL)を提供している事業者は個人から後払い手数料を徴収するのではなく加盟店から決済手数料を徴収することで収益化をしている場合が多く、個人にとっては後払い手数料の負担がない、または低く抑えながら支出を平準化できるメリットも享受できる場合があります。ただし、後払い手数料を個人から徴収するサービスもあるため、利用の際にはしっかりと手数料水準や条件を確認することが必須となります。
個人向け後払い決済(BNPL)のデメリット~相談件数の増加について~
独立行政法人国民生活センターの最新の調査結果によると、全国の消費生活センターに寄せられた「個人向け後払い決済」に関する相談件数は、2021年度の20,302件から2022年度は42,870件へと倍増、2023年度は44,634件と増加傾向が顕著です。
これらの相談の内容としては、販売事業者がECサイトなどで低価格で購入できることを広告で強調する一方、実態としては数ヵ月以上の定期購入が条件となっている健康食品や化粧品等の通信販売に関するものが多く見受けられます。たとえば、健康食品などを最初は無料や1,000円、2,000円といった安価でお試しとして誘導し申し込ませて解約できないようにする悪質な販売事業者による申込み時の虚偽表示などが、これに該当します。その際に個人向け後払い決済(BNPL)が悪用されているということです。なぜでしょうか。
それは、クレジットカード決済を用いる販売事業者は、割賦販売法により厳格なチェックを受けるのに対し、個人向け後払い決済(BNPL)を用いる販売事業者には法規制に基づいたチェック機能がないからです。この状況を受けて、2024年10月24日に開催された金融庁の金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」(第3回)では、個人向け後払い決済(BNPL)に対する規制検討が取り上げられています。
個人向け後払い決済(BNPL)、消費者側の注意点
ここまでは個人向け後払い決済(BNPL)のトラブルの原因となる販売事業者側の問題点についてお伝えしてきました。それでは視点を変えて、消費者側の注意点はどうでしょうか。
これについては支払い能力以上に利用してしまうおそれがあることが最大の課題です。この点はクレジットカードにおいても使い過ぎてしまうリスクが取り沙汰されて久しいですが、とくに個人向け後払い決済(BNPL)はクレジットカード会社による支払い能力に関する審査がなく、アプリなどから電話番号やメールアドレス等の基本情報のみで簡単に登録できてしまうため、なおさらリスクが大きいといえるでしょう。
また、個人向け後払い決済(BNPL)が急速に普及することで、決済サービス(より包括的にいえば金融サービス全般)に対する知識が不十分な状態の方が簡便に利用できる決済手段を得てしまったことも、この点を助長してしまっているようです。
消費者側の解決策としてのSNPLの必要性
さて、それでは個人向け後払い決済(BNPL)の課題について、どのように解決していけば良いでしょうか。販売事業者側については、既にご紹介のとおり、消費者から消費者センターへの相談件数が増加傾向にある点を踏まえ、金融庁が規制強化の姿勢を見せ始めていますので、この動きが加速することに期待するのが一つといえます。
一方で、消費者側の解決策としては、簡易な方法としては支払い能力を超えないように毎月の上限額を設定できる個人向け後払い決済(BNPL)サービスを選ぶという手はあります。ただ、これは対症療法に過ぎず、根本的な解決策とはいえません。
消費者側にとって根本的な解決策となり得るものとして、筆者がおすすめするのはSNPLです。SNPLとは、“Save Now , Pay Later”の略で、「貯めてから支払う」ことを指します。BNPLが今すぐに購入するために借入を出発点とした決済手段であるのに対し、SNPLは貯蓄を出発点とした決済手段といえます。これによって、支払い能力以上に決済してしまう、使い過ぎ問題は根本的になくなるのではないかと考えます。また、貯蓄をするためには様々な工夫が必要であるため、金融サービスに関するリテラシー向上にも役立つでしょう。
ここで「SNPLでは今すぐ購入することができないのでは?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。これはそのとおりだと思います。私たち消費者にとって商品・サービスを購入することは生きているかぎりにおいては継続的な行為です。しかし、これを前提とすれば、支払いに行き詰まることがないよう気を付けることが必要です。ですから、まずは貯蓄を出発点とするのが大所高所の視点で見れば正しいのではないかと考えます。今すぐ購入することができる状態を継続的な貯蓄癖をつけることによって達成しましょう。
「貯めて使う」から「増やしながら貯めて、貯めてから使う」へ
なお、前回もお伝えしたとおり、昨今は国内の経済環境が一変しており、とくに物価上昇(インフレ)に見舞われている点には注意を払う必要があります。これはSNPL(貯めてから支払う)においても例外ではなく、あらゆる継続的な貯蓄の実践には「貯める」とともに「増やす」という観点が必要不可欠です。物価上昇が常態化すると、私たちにとって単に「貯める」という軸だけでお金を捉えていては、家計を圧迫し続けることは目に見えているわけですから。
「増やす」というと「老後資金などのために余裕資金で株式等のリスク資産に投資する」ことのみに目が行きがちですが、目先の生活資金や少し先のいざという時の資金でも、「増やす」という観点を避けるのは得策ではありません(お金の色分けについてはこちらもあわせてご覧ください)。もちろん、老後などのための長期、超長期で考える余裕資金と比べ、生活資金をはじめとした短中期の資金は元本変動を伴うリスク資産に投資するのはおすすめできませんが、直近では様々な金融サービスが出ており、工夫次第で低リスクで「貯めながら増やす」方法は見出せるでしょう。ぜひ楽しみながら金融リテラシーを向上させつつ「増やしながら貯めて、貯めてから使う」を実践してみてください。